住宅品確法の住宅性能表示制度による中古住宅の性能表示の整備・促進(案)についての意見書
兵弁相談発第160号
2001年(平成13年)12月11日
国土交通大臣 林 寛子 殿
兵庫県弁護士会 会長 大塚 明
総会決議
国土交通省が、今般、立法化を検討中の「住宅品確法の住宅性能表示制度による中古住宅の性能表示の整備・促進(案)」について、下記のとおり意見を提出します。
意見書
第1 意見の趣旨
1.住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下、住宅品確法という。)の住宅性能表示制度を中古住宅に適用する場合、対象となる中古住宅は、「新築の際に住宅品確法に基づき建築住宅性能評価書が発行された住宅」に限定すべきであり、指定住宅紛争処理機関が対象とする住宅紛争も上記の中古住宅の範囲に限るべきである。
2.立法論としての中古住宅の性能表示の整備・促進は、宅地建物取引業法35条(重要事項の説明等)に、「現況検査」をした場合の説明義務を附加する形で改正することにより図るべきである。
第2 意見の理由
1.はじめに
指定住宅紛争処理機関兵庫県弁護士会住宅紛争審査会が、「住宅品確法の住宅性能表示制度による中古住宅の性能表示の整備・促進(案)」について、現在得ている情報は極めてわずかであり、また、当審査会に対し国土交通省及び日本弁護士会担当委員会から直接にその意見照会を受けたものではない。
しかしながら、流動的であるとはいえ、現段階で当審査会の意見を公表しなければ、上記(案)が、それ自体として多大な問題点を含むにも係わらず、既定事実とされてしまうことを危惧して、緊急に意見を発表することにする。
2.対象となる中古住宅を限定すべきとする理由
1)現行法における住宅品確法(性能表示部分)の対象
現行住宅品確法上で指定住宅紛争処理機関が紛争処理の対象とする住宅は、建設性能評価書が発行された新築住宅に限定されている(法63条)。
法の仕組みとしても、(1)設計図書を前提に設計性能評価書の存在、(2)指定住宅性能評価機関による中間検査を前提にした建設性能評価書の存在が担保されており、また、(3)住宅供給者からいずれかの性能評価書が取得者に交付された場合には「契約内容についてのみなし条項」が整備されており(法6条)、更に、(4)指定住宅紛争処理機関により迅速かつ適正な解決に資するため参考となる技術的基準も整備されている(70条)。
したがって、指定住宅紛争処理機関の判断に於いて、判断基準として必要となる建築的な情報(前記(1)(2))、法的な情報(上記(3))及び補足的な判断基準((4))が全て与えられている。
逆に言えば、上記条件が整備されているからこそ、新たなADRとして指定住宅紛争処理機関が「住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決」(法1条)に寄与することが可能で、ひいては「住宅購入者等の利益保護」(同じく法1条)に資する基盤があるのである。
2)一般の中古住宅における上記基盤の不存在
ここで一般の中古住宅について上記基盤の有無を検討する。
いわゆる中古住宅においては、設計図書自体が不存在の場合も往々にしてあることは周知の通りであるし、また、仮に設計図書が存在したとしても監理作用の弱さに起因し設計図書どおりの施工が確保されているとは限らないこともまた周知の事実である。
更に、往々にして口約束で契約が締結され、契約内容を明確化する契約書すらも存しない場合も多い。
加えて、法70条の技術基準は、中古建物の経年変化、同建物の前主・前々主の住まい方に起因する問題、新築後の風水害、地震に起因する問題が提起された場合までも考慮に入れたものではなく、中古住宅の紛争解決の判断基準としては決め手となり難い。
したがって、指定住宅紛争処理機関が、有益なADRとして寄与する基盤が全くないと言わざるを得ない。
以上、一般の中古住宅までも審査対象とし、その「住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決」を求められても、指定住宅紛争処理機関にこれを可能とするだけの基盤が存しないと言うほか無く、にもかかわらず基盤があるかのように喧伝されることになると「住宅購入者の利益保護」に資するとは逆に言いがたい。
3)いわゆる「現況検査」の曖昧性 国土交通省が想定する中古住宅の性能評価方法も、現在のところ中古住宅に対する目視による情報開示の域を出ないものであり、上記基盤と同程度の内容を提供できるとは考えられない。 とすれば、中古住宅の紛争処理が可能であると想定できる意見の趣旨1の中古住宅に紛争処理の対象を限定すべきである。この場合は、上記基盤の一部とはいえ存在するからである((1)(2)及び修正を加え(4))。
3.宅地建物取引業法の改正とすべき理由
1)住宅品確法において中古住宅性能表示を位置付けることの無理 住宅品確法における性能表示は、新築住宅の性能について、それが「いかに良いものか」を表示することに主眼があったはずである。しかしながら、中古住宅の「現況検査」は、中古建物が「いかに良くない点を含んでいるか」を示すものとならざるを得ない。 更に、住宅品確法では、「住宅供給者VS住宅取得者」との図式が成り立ち、法の目的である消費者保護の点に齟齬を来さないが、これを中古住宅に敷衍しても、結局「住宅販売者(消費者)VS住宅購入者(消費者)」との図式しか想定できず、住宅品確法の目的に照らすと違和感を感じざるを得ない。 これらは、中古住宅の性能表示を住宅品確法に位置づけるにつき、立法技術上の無理があることを端的に示すものである。
2)宅地建物取引業法への位置付け 中古住宅市場で求められているニーズは、取得者に売買の対象となる中古建物の情報を正確に開示し、取得者に安心を与えるという点が大きいものと思われる。 とするならば、中古住宅取引は、ほとんどの場合宅地建物取引業者が関与するのであるから、この仕組みを利用した方が立法技術上も適切である。 敢えて言うなら、宅地建物取引業法の法定する重要事項説明義務が、不動産に関する権利関係の説明を中心に構成されており、建物の構造安全性等が等閑視されているため中古建物取引の流通を阻害しているとも言えるのである。 したがって、中古住宅の性能表示については、中古建物について「現況調査」がなされた場合のみ、これを宅地建物取引業者の需要事項説明の内容とすることで対応すべきであるし、また、それで十分である。
第3 まとめ
「中古住宅市場における取引の不安を解消するとともに中古住宅ストックの適切な活用を図る」との政策目的に異論を呈するものではないが、これを実現するためには他の立法的選択肢も有り得る。
各指定住宅紛争処理機関にも、現在国土交通省が企図している「住宅品確法の住宅性能表示制度による中古住宅の性能表示の整備・促進(案)」につき、個別に意見照会のうえ、慎重な判断を求めるものである。
以上
兵弁相談発第161号
2001年(平成13年)12月11日
日本弁護士連合会 会長 久保井 一匡 殿
兵庫県弁護士会 会長 大塚 明
国土交通省が、今般、立法化を検討中の「住宅品確法の住宅性能表示制度による中古住宅の性能表示の整備・促進(案)」について、下記のとおり意見を提出します。
意見書
第1 意見の趣旨
1.住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下、住宅品確法という。)の住宅性能表示制度を中古住宅に適用する場合、対象となる中古住宅は、「新築の際に住宅品確法に基づき建築住宅性能評価書が発行された住宅」に限定すべきであり、指定住宅紛争処理機関が対象とする住宅紛争も上記の中古住宅の範囲に限るべきである。
2.立法論としての中古住宅の性能表示の整備・促進は、宅地建物取引業法35条(重要事項の説明等)に、「現況検査」をした場合の説明義務を附加する形で改正することにより図るべきである。
第2 意見の理由
1.はじめに
指定住宅紛争処理機関兵庫県弁護士会住宅紛争審査会が、「住宅品確法の住宅性能表示制度による中古住宅の性能表示の整備・促進(案)」について、現在得ている情報は極めてわずかであり、また、当審査会に対し国土交通省及び日本弁護士会担当委員会から直接にその意見照会を受けたものではない。
しかしながら、流動的であるとはいえ、現段階で当審査会の意見を公表しなければ、上記(案)が、それ自体として多大な問題点を含むにも係わらず、既定事実とされてしまうことを危惧して、緊急に意見を発表することにする。
2.対象となる中古住宅を限定すべきとする理由
1)現行法における住宅品確法(性能表示部分)の対象
現行住宅品確法上で指定住宅紛争処理機関が紛争処理の対象とする住宅は、建設性能評価書が発行された新築住宅に限定されている(法63条)。
法の仕組みとしても、(1)設計図書を前提に設計性能評価書の存在、(2)指定住宅性能評価機関による中間検査を前提にした建設性能評価書の存在が担保されており、また、(3)住宅供給者からいずれかの性能評価書が取得者に交付された場合には「契約内容についてのみなし条項」が整備されており(法6条)、更に、(4)指定住宅紛争処理機関により迅速かつ適正な解決に資するため参考となる技術的基準も整備されている(70条)。
したがって、指定住宅紛争処理機関の判断に於いて、判断基準として必要となる建築的な情報(前記(1)(2))、法的な情報(上記(3))及び補足的な判断基準((4))が全て与えられている。
逆に言えば、上記条件が整備されているからこそ、新たなADRとして指定住宅紛争処理機関が「住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決」(法1条)に寄与することが可能で、ひいては「住宅購入者等の利益保護」(同じく法1条)に資する基盤があるのである。
2)一般の中古住宅における上記基盤の不存在
ここで一般の中古住宅について上記基盤の有無を検討する。
いわゆる中古住宅においては、設計図書自体が不存在の場合も往々にしてあることは周知の通りであるし、また、仮に設計図書が存在したとしても監理作用の弱さに起因し設計図書どおりの施工が確保されているとは限らないこともまた周知の事実である。
更に、往々にして口約束で契約が締結され、契約内容を明確化する契約書すらも存しない場合も多い。
加えて、法70条の技術基準は、中古建物の経年変化、同建物の前主・前々主の住まい方に起因する問題、新築後の風水害、地震に起因する問題が提起された場合までも考慮に入れたものではなく、中古住宅の紛争解決の判断基準としては決め手となり難い。
したがって、指定住宅紛争処理機関が、有益なADRとして寄与する基盤が全くないと言わざるを得ない。
以上、一般の中古住宅までも審査対象とし、その「住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決」を求められても、指定住宅紛争処理機関にこれを可能とするだけの基盤が存しないと言うほか無く、にもかかわらず基盤があるかのように喧伝されることになると「住宅購入者の利益保護」に資するとは逆に言いがたい。
3)いわゆる「現況検査」の曖昧性 国土交通省が想定する中古住宅の性能評価方法も、現在のところ中古住宅に対する目視による情報開示の域を出ないものであり、上記基盤と同程度の内容を提供できるとは考えられない。
とすれば、中古住宅の紛争処理が可能であると想定できる意見の趣旨1の中古住宅に紛争処理の対象を限定すべきである。この場合は、上記基盤の一部とはいえ存在するからである((1)(2)及び修正を加え(4))。
3.宅地建物取引業法の改正とすべき理由
1)住宅品確法において中古住宅性能表示を位置付けることの無理
住宅品確法における性能表示は、新築住宅の性能について、それが「いかに良いものか」を表示することに主眼があったはずである。しかしながら、中古住宅の「現況検査」は、中古建物が「いかに良くない点を含んでいるか」を示すものとならざるを得ない。
更に、住宅品確法では、「住宅供給者VS住宅取得者」との図式が成り立ち、法の目的である消費者保護の点に齟齬を来さないが、これを中古住宅に敷衍しても、結局「住宅販売者(消費者)VS住宅購入者(消費者)」との図式しか想定できず、住宅品確法の目的に照らすと違和感を感じざるを得ない。
これらは、中古住宅の性能表示を住宅品確法に位置づけるにつき、立法技術上の無理があることを端的に示すものである。
2)宅地建物取引業法への位置付け 中古住宅市場で求められているニーズは、取得者に売買の対象となる中古建物の情報を正確に開示し、取得者に安心を与えるという点が大きいものと思われる。
とするならば、中古住宅取引は、ほとんどの場合宅地建物取引業者が関与するのであるから、この仕組みを利用した方が立法技術上も適切である。
敢えて言うなら、宅地建物取引業法の法定する重要事項説明義務が、不動産に関する権利関係の説明を中心に構成されており、建物の構造安全性等が等閑視されているため中古建物取引の流通を阻害しているとも言えるのである。
したがって、中古住宅の性能表示については、中古建物について「現況調査」がなされた場合のみ、これを宅地建物取引業者の需要事項説明の内容とすることで対応すべきであるし、また、それで十分である。
第3 まとめ
「中古住宅市場における取引の不安を解消するとともに中古住宅ストックの適切な活用を図る」との政策目的に異論を呈するものではないが、これを実現するためには他の立法的選択肢も有り得る。
各指定住宅紛争処理機関にも、現在国土交通省が企図している「住宅品確法の住宅性能表示制度による中古住宅の性能表示の整備・促進(案)」につき、個別に意見照会のうえ、慎重な判断を求めるものである。
以上