司法改革の具体化についての総会決議
司法制度改革推進法が成立し、内閣に司法制度改革推進本部が設けられ、わが国の司法改革は第2ラウンドに入った。この司法改革は、真に市民のための司法改革となり、弱者や少数者の人権をも守ることのできる、あるべき司法を実現するものでなければならない。そのためには、今後の改革作業は、官僚による密室作業ではなく、従来にもまして市民に公開され、多くの意見と批判を求めつつ、将来の日本の市民社会の健全な発展に資するものでなければならない。
兵庫県弁護士会は、司法が基本的人権を擁護し社会正義を実現するために不可欠のものであることを深く自覚し、市民のための司法改革に、市民と共に全力を尽くすことを決意して、次の通りその具体化に努める。
1.弁護士サービスの県下全面展開に取り組む
法律相談はもちろん、国選弁護や当番弁護士のよりいっそうの充実のために、兵庫県全域にわたる法律事務所や法律相談センター、法律相談所等の適正配置を含めて将来構想の検討を開始し、2001年5月の日弁連理事会決議「司法サービスの全国展開に関する行動計画」にしたがって、県内の地方裁判所支部のすべての地域に法律相談センターを設置し、独立簡易裁判所の管轄区域にも法律相談所を設置するべく、検討を開始する。
2.裁判所と裁判官の改革に取り組む
裁判所と裁判官の改革は、直ちに実施されなければならない。裁判官経験が10年に満たないのに、独立して裁判を行っている「特例判事補」は、裁判官の不足を補うための「特例」であったはずが常態化しているものであって、速やかに廃止されなければならない。また、法曹経験10年以上で任官する「判事」についても、判事に任官する前に少なくとも3年以上の期間、裁判官の職を離れて弁護士等の他職経験を積ませることが必要である。
当弁護士会は、弁護士からの裁判官任官を容易にするための環境整備に努め、弁護士任官を積極的に推進するとともに、裁判官が他職経験をつむために弁護士となる場合の受け入れに積極的に取り組む。
3.より良い法曹養成に取り組む
より良い法曹養成のために予定されている法科大学院では、幅広い人材を集め、実りある法曹養成教育を行わなければならない。そのためには、法科大学院の学生の半数以上を法学部以外の出身者や社会人とすること、法科大学院を大都市だけでなく地方拠点にも配置すること、法曹をめざす学生に奨学金等の経済的支援をおこなうこと、がぜひとも必要である。
当弁護士会は、理想的な法曹養成を実現するため、教育内容の検討・提言や講師の推薦など、主体的、積極的な取組をすすめる。
4.「市民のための弁護士会」の体制をつくる
(1) 職員が常駐しながら独立の支部事務所を有しない当弁護士会尼崎支部の、よりいっそうの活動の充実をはかるため、独立の支部事務所を設置し、常設の法律相談センターを早急に開設する。
(2) 職員がいない当弁護士会の伊丹・明石支部について、よりいっそうの支部会員弁護士の増強と、それに伴う支部運営強化のための方策を検討する。
(3) 県北部の広い地域をカバーしながら弁護士が少ない豊岡支部の会員弁護士の増強をはかり、当該地域の法的サービスの強化策を検討する。
2002年(平成14年)3月14日
兵庫県弁護士会
提案理由
司法制度改革について、当会は審議会の最終意見書に対する会長声明、および司法制度改革推進法の成立にあたっての会長声明、を発表した。これら二つの会長声明は、常議員会の承認を経たものであるが、今後、司法改革をさらに具体化していく中では、あらためて当会としての具体的な方針と行動計画を内外に明らかにすることは、弁護士会としての責務であろう。 本決議案は、司法改革の実現と具体化のために、直接当会が担うべき事項について、今後の弁護士会としての行動計画を明らかにしようとするものである。
第1項は、弁護士としての法律事務サービスを兵庫県下全域へあまねく展開し、弁護士偏在から生じる問題を解消するため、日弁連の宣言に呼応して、その実現をはかろうとするものであり、日弁連2001年理事会決議「司法サービスの全国展開に関する行動計画」を当会としても実現することを、基本目標として宣言するもである。
第2項は、現在の司法のなかでも、もっとも改革が急がれる裁判所と裁判官の改革について、当会の積極的な取組を宣言するものである。
第3項は、既に2年後の設置が決定している、将来の法曹を養成する法科大学院について、そのより良い制度設計と、それに対する当会の主体的かつ積極的な取組を宣言するものである。
第4項は、当弁護士会が市民と連帯して、法的サービスの県内における展開を広く行い、弁護士業務をひろく市民に身近なものとし、市民の権利擁護に資するための行動計画を宣言するものである。
(1) は、尼崎支部が姫路支部とならぶ大規模支部であり、従来から事実上検討はされながら、会としての正式の方針が決定されていなかった事項を、ここに弁護士会の総意としてのプログラムを宣言しようとするものである。
(2)(3)は、姫路・尼崎以外の支部の将来的強化を宣言し、あわせて弁護士過疎の解消に向けた当会の決意を、将来に向かって表明しようとするものである。
これらすべてが、今すぐに実行可能であるとは言いきれない。しかし、当会としての近い将来に向かっての行動計画(アクションプログラム)として、これらを当会全体の基本的合意として決議することは、将来に向かっての当会の方向性を明示し、会員の力を結集するためにも、時宜にかなったものであると信じる。