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意見表明(1998年-2010年)

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ハンセン病への差別を助長するリーフレットの回収と患者であった人々への人権救済措置を求める要望書

兵庫県知事 井戸 敏三 殿

要望書

2003年(平成15年)2月14日
兵庫県弁護士会 会長 藤野 亮司

1. 2001年(平成13年)5月11日に熊本地方裁判所が、国のハンセン病患者に対する強制隔離政策の違法性とその重大な人権侵害を認める判決を言い渡してから、既に1年6ヶ月以上が経過している。この間、ハンセン病違憲国賠訴訟原告団・弁護団と国との間で基本合意が成立し(同年7月23日)、国はその隔離政策により差別偏見を助長してきたことを謝罪し、患者であった人々の名誉回復、社会復帰の措置をとることを約束した。また、当会も兵庫県知事に対し「ハンセン病の患者であった人々の人権を回復するために(要望)」とする要望書(同年7月19日付け)を提出し、(1)強制隔離・強制収容を実施したことの真相究明と謝罪、元患者の名誉回復措置を講ずること、(2)ハンセン病に対する差別・偏見を除去するために正しい知識を周知徹底させる広報活動を行うこと、(3)入所者が故郷に帰れるような医療の保障や住居の確保など諸種の体制の整備を行うこと、などを要請した。

2. しかるに、兵庫県は、現在にいたるまで元患者の名誉回復措置を講じていないばかりか、その作成し配布しているリーフレットには、差別、偏見を助長する内容が掲載されている。
 すなわち、兵庫県は、生活部医療課疾病対策室より、2001年(平成13年)7月頃から「ハンセン病に正しい理解を」と題するリーフレットを配布している。この中では、ハンセン病患者、元患者らに対する差別、偏見を助長した国の隔離政策と各都道府県が推進した「無らい県運動」の誤りを明らかにしていないばかりか、差別、偏見は疾病により「手足や顔が変形したり」するために生じたと記述しており、差別、偏見の原因を病気や、ひいては病気にかかった患者、元患者に帰する内容となっている。これは単に記載内容が不十分というにとどまらず、かえって、元患者らへの差別、偏見を助長するものであって、新たな人権侵害を引き起こすものといわざるを得ない。
 厚生労働省や大阪府のパンフレットでは、国の隔離政策や大阪府の「無らい県運動」が差別を助長したことを明記し、国が隔離政策の誤りを元患者らに謝罪したことも記述していることと比較しても、兵庫県が作成したリーフレットの内容に問題があることは明らかである。

3. このようなリーフレットが前述の熊本地方裁判所判決に国が控訴せず、元患者らに謝罪し、偏見、差別の解消と社会復帰の措置を約してから1年半以上も経過した現在においても配布が続けられていることは全く遺憾であり、到底容認できるものではない。また、このような事態は、前述の国との基本合意において、国が自治体に対しても患者・元患者に対し、謝罪広告をはじめ、可能な限りの名誉の回復の措置を講ずるよう要請を行う、とした内容にも反している。
 このようなリーフレットが未だ配布されている原因の一つとして、兵庫県の啓発活動、社会復帰施策に元患者やハンセン病訴訟原告団、弁護団などの当事者を参加させていないことがあると思われる。兵庫県は、県の設置した「ハンセン病対策プロジェクトチーム」には、前記当事者が全く参加していない。この点においても、大阪府が設けた「大阪府ハンセン病実態調査報告書作成委員会」にハンセン病訴訟原告団と弁護団から委員が参加し、また岡山県でも「岡山県ハンセン病問題対策協議会」において弁護団や入所者が委員として参加していることと対照的である。
 更に、兵庫県も行ってきた「無らい県運動」という隔離政策の実態究明が進んでいないことも、このような事態を引き起こした要因の一つとなっていると思われる。

4. そこで兵庫県が以下の措置をとるよう要望する。
 (1)本件リーフレットを直ちに回収、廃棄すると共に、同リーフレットの配布を続けてきたことを元患者らに対し謝罪し、このようなリーフレットが配布され続けたことの原因を明らかにし、再発防止を約束するとともに、新たに啓発のための充分な内容を盛り込んだリーフレットを作成配布すること
 (2)今後、同様の事態の再発を防止するために、前記プロジェクトチーム他、同県が行う啓発活動や社会復帰事業など、元患者らに関する施策の制定や実施にあたっては、元患者、原告団、弁護団など、当事者の参加を最大限確保すること
 (3)兵庫県も行ってきた「無らい県運動」などの隔離政策の実態究明に努め、今後再び、元患者らにこのような人権侵害を繰り返さぬよう、関係機関、職員へ啓発や指導を行うこと。

以上