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意見表明(1998年-2010年)

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国選弁護人報酬の増額等を求める会長声明

2004年(平成16年)7月14日
兵庫県弁護士会 会長 滝本 雅彦

 わが国の刑事裁判の7割以上について国選弁護人が選任され、神戸地方裁判所管内においても刑事事件の大半を当会の会員である国選弁護人が担っており、その中には法定合議事件や否認事件などの困難な事件も多数含まれている。

 被告人の弁護人依頼権を実質的に保障し、適正な刑事司法制度を実現していくためには、国選弁護を担う国選弁護人が十分な弁護活動ができるだけの適正な報酬が確保されなければならない。そのためには国によって適正な予算が手当てされなければならないことは言うまでもない。

 しかし、現在、地方裁判所標準事件(3開廷)1件当たりの報酬支給基準額は85,200円とされており、被害者との示談交渉・被害弁償、保釈請求等を行う場合の時間や労力は報酬基準に反映されていない。

 また、記録謄写料、交通費、通信費、通訳料、翻訳料等の実費は弁護活動に不可欠な費用として全額支弁されてしかるべきであるのに、現実には報酬の一部として、かつ制限された範囲で支給されているにすぎない。兵庫県においては、拘置所や代用監獄が満杯で遠方に勾留されるケースが珍しくなく、接見に要する時間と費用の負担が増えている。また、遠隔地の地裁支部における国選事件などの場合、時間と手間がかかる上に、公判への出廷以外の接見交通費が全額支給されず、謄写費用も支給されないために報酬の大半をこれら費用に充てざるを得ず、弁護活動に熱心に取り組めば取り組むほど弁護人は報われないといった事態が生じている。

 平成18年には国費による被疑者弁護制度が開始されるが、現在のような国選弁護報酬の低廉な状況が国費による被疑者弁護にも広がるようなことになれば、被疑者の弁護人依頼権は実質的に保障されないことになり、制度を創設した意義が失われることになる。

 当会は日弁連とともに毎年国選弁護報酬の増額を要請してきたが、財務省は平成12年度ないし同14年度は増額を全く認めなかったばかりか、同15年度には戦後初めて800円減額し、引き続き同16年度もさらに400円を減額したため、前記のとおり報酬支給基準額は85,200円になっている。ところが、国選弁護制度は憲法37条により刑事被告人に保障された人権の具体的な担保であるから、これまでも不十分であった国選弁護報酬のさらなる減額は到底許容されるものではない。

 また、国費による被疑者弁護制度の創設に備えて従前よりも遙かに多い国選弁護人の受任希望者の確保が必要になることを考えると、国選弁護報酬の減額は新しい弁護制度の実現の障害にもなりかねない。

 弁護人の地位及び任務は国選・私選を問わず全く同一である。しかも、国選弁護の方が被告人との信頼関係の形成や被告人の家族・知人等からの協力を得ることに困難を伴い、国選弁護人の負担は私選弁護人よりもむしろ大きい。にもかかわらず当会の会員はかかる負担や犠牲を省みずに真摯に弁護活動を行っている。さらに、当会は、「兵庫県弁護士会国費による弁護人の推薦並びに運営に関する規則」を定めたり、刑事弁護に関する研修を強化するなど刑事弁護の質の維持向上を図るための努力を続けており、国費による被疑者弁護制度の実現に向けてさらにその取組みを強化する所存である。

 他方、国には刑事被告人の弁護人依頼権の保障と刑事裁判の充実のために国選弁護人が有効かつ十分な弁護活動ができる諸条件を整える義務があり、そのための予算措置を講ずる必要がある。
 そこで、当会は国選弁護人の報酬に関して以下の措置が実現されることを求める。

1.国選弁護人報酬の支給基準を第1審標準事件1件あたり200,000円以上とすること

2.弁護活動のための記録謄写、交通費、通信費、通訳料、翻訳料等の実費は、本来の報酬に必ず実費加算して支給すること

3.事件の難度、法廷外の準備、法廷内の具体的訴訟活動、出廷回数、審理期間など弁護活動に費やされる労力に応じた報酬及び日当を支給すること

4.外国人の要通訳事件については、通訳人の確保と日程調整の困難、通訳人を介しても文化的背景が異なり、わが国の法律や制度に対する理解を求めることに手間がかかり、意思疎通も容易でないことなど、日本人の被告事件に比してかなり困難であることに鑑み、通常事件の1.5倍程度の報酬を支給すること

5.特別案件の国選弁護人は長時間特別の困難と負担を余儀なくされている現状を考慮して私選弁護の水準に匹敵する相当額の報酬を支給すること