少年法等「改正」法案に対する反対声明
2005年(平成17年)3月10日
兵庫県弁護士会 会長職務代行 副会長 藤本 尚道
少年法等改正案が平成17年3月1日に閣議決定され今国会に提出された。 この改正案では、一定の重大な非行について国費による付添人を付する制度を設けた点では評価できるものの、同時に、低年齢非行少年に対する厳罰化、触法少年等に対する福祉的対応の後退、警察官による強制捜査権を認めるなど重大な問題をはらんでいる。そこで、以下の点について反対の意思を表明する。
1 少年院送致年齢の下限(14歳)撤廃 まず、上記法案は少年院送致年齢の下限を撤廃し、法的には、小学生はおろか幼稚園児でも少年院に入れられるような内容で厳罰化を進めている。しかし、年齢の低い少年にこそ、家族的・開放的な環境で「生活のやり直し、育てなおし」をすることが効果的である。そして、以下のように、14歳未満の少年の凶悪化は統計上見られず、厳罰化による少年非行抑止効果については、具体的な検証は何らなされていない。
平成16年度の警察白書によると、まず、触法少年の数自体は、平成10年の2万6000人超というピークから減少しており、近年は、2万1000人前後で推移している。平成17年2月3日付け新聞等で報道された警察庁のまとめによると、刑法の規定で罰せられない14歳未満の触法少年の補導件数は前年比6・2%減の2万0198人であった。凶悪犯罪で補導された触法少年は前年比3・3%増と微増し、219人であり、この数字は過去10年では最も多かったとされているが、昭和56年から62年にかけてのピーク時には及んでいない。
一方、平成12年以降漸増傾向にあった刑法犯少年の摘発人数は前年比6・6%減の13万4857人で4年ぶりに減少に転じた。特に、殺人、強盗など凶悪犯罪で摘発された少年も同28・4%減の1584人と大幅に減った。
このように少年事件全体を見渡しても、14歳未満の少年に限定しても、補導件数、摘発人数の増加、凶悪化のいずれの傾向も見られず、安定して推移しており、減少傾向さえ見られる。
今回の法案の内容は、このような少年事件の実態を無視した、全く無意味かつ極めて有害な改悪である。
2 触法少年に対する福祉的対応の後退
今回の法案全体の厳罰志向に伴い、同法案では、警察官の調査権限を定め、一定の強制処分のほか、触法少年等に対する調査(質問)を行うことができることになる。
しかし、低年齢の少年に対する調査は、本来、児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進めるべきである。質問に際して、保護者や弁護士の立会いなくして、児童の福祉や心理について専門性を有しない警察官にこのような権限を認めることは、必ずしも真実発見に役立たないばかりか少年等に対する真に求められる教育的・福祉的対応を後退させるものである。
今まさに必要とされているのは、児童相談所などの福祉的・教育的施設の人的・物的な充実を図ることである。前述の警察庁のまとめによれば、児童虐待事件は検挙者数が前年比4割増の253人、被害児童も4割増の239人に上った。うち、死亡した児童は51人だった。まさに、青少年に関しては加害者になることと同じくらいか、それ以上に被害者となることこそが社会問題であり、この問題に真正面から取り組んでいるのが、児童相談所、児童養護施設、児童自立支援施設などの福祉的・教育的施設なのである。非行少年に児童虐待の被害経験者が多いことは、専門家の中で一致した見方である。従って、少年非行に対応するためには、まさに児童自立支援施設をはじめとする福祉的・教育的措置を充実する方向で改善していくことが先決である。
3 保護観察の「実効性確保」の問題点
今回の法案では、保護観察中に順守事項に違反した場合にも少年院送致などの措置がとれる制度を設けるものとしている。
保護観察は、少年の自ら立ち直る力を育てるため保護観察官・保護司が少年に対し粘り強く働きかけることを中心とする。ところが、改正法案は、保護観察の「実効性確保」を目的にして、「少年院送致」を威嚇の手段として、遵守事項を守るよう少年に求めるものと言わざるを得ない。
これは、保護観察制度における少年の自主的な努力による成長を助けるという制度本来の趣旨を大きくねじ曲げる改悪である。
国選付添人制度の拡充については評価できるものの、以上に述べたその余の各点は、従来の少年に対する家庭裁判所と福祉的教育的施設を中心とする対応を大きく後退させるものと言わなければならず、強く反対するものである。