「内金のつもりが手付けに-契約は売り主を確認して」神戸新聞 1997年4月17日掲載
執筆者:廣井 正則弁護士
家は一生の買い物です。少しでも納得がいかないことがあると落ち着かないもの。弁護士の兵さんの所へ、「花見」を口実に遊び仲間の八さんがやってきました。
相談者:兵さん、花見に行かへんか。
弁護士:また、お茶とたくあんと大根で花見するんかー。落語の貧乏花見と違うんやから、茶柱の立っている洒なんか勘弁してや。
相談者:いや、違うんや。今度は本物の洒や。
弁護士:あっ、そうなんか。ほんだら、行くわ。さ、今から行こか。
相談者:いや、その前にちょっと話があるんや。兵さんは、法律のことよう知っとうか。
弁護士:いや、知らん。さ、花見に行こ。
相談者:そんなこといわんと、教えてくれや。
弁護士:なんや。はよしてくれよ。桜が散ってまうで。
相談者:僕な、家、買お思てお金を払たんや。
弁護士:よかったやんか。八さんもマイホームの所有者になるんやなあ。
相談者:それやがな。内金のつもりで、お金払たんやけど、どういうわけか、手付けということになってしもたんや。これ、どこが違うん。
弁護士:そうやなあ、話せば長いことかかるけど、そんなことしとったら、桜が散ってしまうし、まあ、買い主と売り主がお互いにちゃんと債務を履行してもうたら、どっちも一緒や。ほんだら、花見に行こか。
相談者:う-ん、ほんだら、どっちもが、ちゃんと履行する前やったらどう違うん。
弁護士:そうやなあ。手付けの場合は、原則として解約手付けと解されるから、解除原因がなかっても、相手方が履行に看手するまでは手付けを放棄して解除できるし、相手方も八さんが履行に着手するまでは、手付けの倍額を提供して解除できる。せやけど、内金の場合は一部の弁済やから解除原因がない限り、解除はできひんな。ほんだら、花見に行こか。
相談者:うーん。ほかにも何か違いはあるんか。
弁護士:そら、ほかにもあるけど、そんなに心配しとったら、僕みたいに禿(は)げるで。
相談者:禿げるんは、嫌や。
弁護士:そうやろ、禿げたら損やで。あんまり心配せんでも、売買契約は売り主がしっかりしとったら大丈夫やで。八さんは、だれから家を買うん。
相談者:横丁のご隠居や。
弁護士:横丁のご隠居は金持ちやし、悪いこともせんから大丈夫や。さ、花見に行こ。バーっと行くで。
相談者:よっしゃ、兵さんのおごりで、パーっと行こ。
弁護士::あれ?まっ、ええか。