「敷引き5割のはずが-通常の傷みなら賠償不要」神戸新聞 1997年5月1日掲載
執筆者:石井 嘉門弁護士
引っ越しのシーズンも一段落しました。この時期は、賃貸借契約のトラフルが目立ちます。相談者は敷金の中の敷引き金をめぐり、家主ともめているようです。
相談者:五年ほど住んでいた貨貸アパートから引っ越すことになったのですが、敷金のことで家主ともめています。敷引きは契約では五割ということでしたから、三十万円は返してもらえるつもりだったのですが、家主は返せないというのです。
弁護士:敷引きが五割とは少し高いですね。それで、家主が敷金を返せない理由は聞きましたか。
相談者:畳とかドアの傷み方がひどいので、損害賠償をしてもらう必要がある、ということでした。
弁護士:どんな具合の傷み方なんですか。
相談者:入居のときと比べて、汚れとか傷とかは目立つようになりましたが、取り換えるほどのものではないと思うのですか…。
弁護士:賃借人が建物を使うことによって、建具などに汚れとか傷みができるのは当然のことです。本来そのことについて、借家人は損害賠償に応じなくても良いのです。ただ、通常の使用による傷みなのかどうか、判別できないこともあるでしょうし、損害額をどう見積もるかが難しいこともあるでしょう。だから、敷引きによって敷金の中から家主に一定の金額を残すことにして、通常の損傷かどうかを判断することなく、賠償にあてることを合意しておくのです。これが、敷引きだということです。
相談者:では、仮に私が故意にドアを壊したとかで、ドアを取り換える場合でも敷引きで賄ってくれと、家主に言ってもいいのですか。
弁護士:家主の側で、あなたか故意に壊したことを立証できるのであれば、敷引きの額を超えても賠償を求めることかできます。
相談者:私の場合は、今回故意に壊したものはないから、敷引きにされても残りの敷金は返してもらえると考えてもいいのですね。
弁護士:敷金の返還にどうしても家主か応じないとなると、結局訴訟とか調停での解決を求める必要があります。しかし、三十万円の返還を求める裁判手続きということになると、家主側も費用がかかることになりますので、返還を求める文書を弁護士から家主に郵送することで解決することもあります。ですから、そう難しく考えずに弁護士に処理してもらうことを考えられた方がいいでしょう。