「老親の扶養義務-同居が無理なら仕送りで」神戸新聞 2000年7月12日掲載
執筆者:増田 正幸弁護士
母親から同居をしたいと言われました。家が狭いのですが、長男であれば引き取らなければならないのでしょうか。
相談者:私の母は、父と二人で暮らしていましたが、最近父が亡くなり、母は年金だけでは生活が苦しいらしく、私と同居をしたいと言ってきました。民法で子の親に対する扶養義務を定めていると聞きましたが、どうなっているのですか。
弁護士:民法は、夫婦間の扶養義務、未成年の子に対する親権者の扶養義務と、それ以外の親族間の扶養義務について定めています。
「それ以外の親族間の扶養義務」は、扶養を受ける者の生活が経済的に危機にひんしている場合に、最低の生活を維持できるよう援助を与えれば足りるという義務(生活扶助義務)です。ご相談の場合は、子の親に対する生活扶助義務が問題となります。
相談者:私には弟と妹がいますが、やはり長男の私が母を引き取らなければならないでしょうか。
弁護士:戦前は家督制度があり、長男が親の財産を全部相続する半面として、長男が親を扶養することになっていました。現在は、あなたと弟さん、妹さんのそれぞれがお母さんに対する扶養義務を負っています。
相談者:母は長男の私に期待しているようなのですが、わが家は狭くてとても母と同居することができません。
弁護士:扶養の方法には、親を自宅に引き取って同居するという方法(引き取り扶養)だけでなく、生活費を仕送りする(金銭扶養、給付扶養)という方法があり、それぞれの事情に合わせて決めればよいことになっています。引き取りが無理ならば仕送りをするという方法でもかまいません。
相談者:ところが、私は三人の子どもがいるため、とても母に仕送りをしてやるだけの力がありません。
弁護士:親が扶養を要する状態になっても、あなたはまず自分の妻子の現在の生活を維持する義務があります。したがって、その上でなお余裕があるときに、その範囲で親を扶養すれば足りるのです。
相談者:このように、私だけではとても母を扶養することができないのですが、どうすればよいのでしょうか。
弁護士:あなた以外に弟さん、妹さんも扶養義務を負っているので、三人のうち、だれがどのようにしてお母さんを扶養するのかを話し合う必要があります。話し合いがまとまらなかったり、話し合いができない場合には、家庭裁判所で調停や審判をへて決めることになります。