「飼い犬のかみつき-落ち度があれば賠償責任」神戸新聞 2001年2月28日掲載
執筆者:高橋 正樹弁護士
飼い犬が小学生にかみつきました。損害賠償をしなければならないでしょうか。
相談者:私の不注意で、開けていた門から飼い犬が外に出てしまい、通行中の小学三年生にかみついてけがを負わせてしまいました。そのため小学生の両親から損害賠償請求されているのですが。
弁護士:民法七一八条一項により、本件では飼い主が賠償責任を負うことになります。ただし、飼い主に動物の保管についての落ち度がなければ免責されます。この責任は、加害者の側で落ち度がなかったことを証明しなければならず、被害者の側で加害者に落ち度があったことを証明しなければならない通常の不法行為責任とは異なっています。これは、動物という他人に危害を加える可能性のあるものを占有し保管する者は、そのリスクもまた負うべきであるという考えに基づいています。
相談者:しかし、飼い犬は小型犬でおとなしいですし、今まで人にかみついたこともありません。また、本件当時鎖につないでいました。さらに、犬がかみついたのは小学生が犬に石を投げてからかったためです。
弁護士:ご自宅の前の通路の人の往来はどの程度ですか。また、鎖の長さはどのくらいですか。
相談者:住宅街ですので付近の住民がよく通っています。また、鎖の長さは、門から一犬身出られる長さでした。
弁護士:客観的に犬が人に危害を加える可能性があることは否定できませんので、いくら本件で飼い犬が小型犬でおとなしく、かむ癖もないとしてもそれだけでは免責されません。また、つないでいても、人の往来のある通路に出られる状態であったとすれば、上記可能性はやはり否定できないでしょう。従って、本件では、おそらく免責されないと考えます。
相談者:そうですか。
弁護士:ところで、被害者にも落ち度があれば過失相殺により損害額が減額されます。しかし、過失相殺が認められるためには、被害者に損害の発生を避けるために必要な注意をする能力が必要とされており、大体十二歳前後であれば認められるとされています。本件では被害者は小学三年生ですから、過失相殺が認められない可能性があります。
ただし、被害者自身に過失相殺が認められなくても、被害者の両親など一定の身分関係がある者に、例えば、むやみに動物に危害を加えることの危険性について十分教育をしていなかったという事情があれば、被害者側の過失として過失相殺が認められる場合もあります。従って本件でも、このような事情があれば過失相殺が認められる余地があると考えます。