「従業員の解雇-就業規則に事由明示を」神戸新聞 2005年3月15日掲載
執筆者:田上 健弁護士
Q:数人の従業員を雇って会社を経営していますが、ある従業員が、遅刻が多く、いくら注意しても直らないばかりか、最近は無断欠勤までするようになり、困っています。彼を解雇することができるのでしょうか。
A:会社は従業員を一方的に解雇することができます。ですから、遅刻・無断欠勤を理由に解雇できる、とするのが従来の考えです。しかし、会社が従業員を不当に解雇しているとして、その適法性を巡ってさまざまな紛争が起こり、解雇に制限が課されてきました。
解雇は従業員にとって、生活を困難にさせられる重大な問題です。そのため、どのような場合に解雇できるのかを、あらかじめ明確にしておくことが望ましいと言えます。これまでに多発した紛争も、それが不明確だったことが大きな原因と言えます。
そこで、2003年に労働基準法が改正され、解雇の事由を明確にすることが必要となりました。
具体的には、(1)労働条件・就業規則において、あらかじめ解雇の事由を明示しなければならない(2)解雇は合理的で相当なものでなければ無効-となりました。解雇ルールを明確化することにより、会社が不当に従業員を解雇しないよう、事前の防止が図られたのです。
このため、本件で解雇が認められるには、(1)あらかじめ契約時の労働条件の中で、遅刻や無断欠勤が解雇の事由として定まっていることが必要です。従業員を常時十人以上雇っている会社は、就業規則でも定めておかなければなりません。
そして、(2)遅刻が多くいくら注意しても直らず、無断欠勤までするようになった場合、遅刻や無断欠勤に正当な理由がなければ、その従業員を解雇することは、合理的で相当なものとして認められることになります。
ただし、解雇が従業員に重大な影響を与えることを考えれば、解雇の事由を労働条件などに記載するだけでなく、会社と従業員があらかじめ、どのような場合に解雇となるのかを十分に話し合って決めておくことが、紛争防止に役立ちます。
なお、就業規則を定めなければならない会社で、解雇の事由の記載がない場合には、就業規則に新たに加えて行政官庁に届けなければならないので注意が必要です。