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2006年 神戸新聞掲載『くらしの法律相談』

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「借地上の建物の譲渡-承諾要るが、代諾許可も」神戸新聞 2006年8月15日掲載

執筆者:菊井 公策弁護士

Q:私は、Aさんから借りた土地に自分で建物を建て事業をしています。ただ景気が悪く、建物を売ったお金で今までの借金を返し、別の所で商売を始めたいと考えています。建物を売るにあたってはAさんに了解をもらった方がいいのでしょうか。もらえない場合は、売れないのでしょうか。

A:借地上の建物を他人に譲渡する場合、建物の譲渡に伴い、土地賃借権も当然に譲渡されることになります。建物は何らかの敷地利用権がなければ正当に存続し得ないからです。

ところで、民法では、賃貸借契約においては、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権を第三者に譲り渡すことはできないと規定されています(民法第612条1項)。賃貸人としては、自分の預かり知らぬところで勝手に賃借権を譲渡され、賃料の支払いを受けられないことになると、予期せぬ不利益を被ることになってしまいますから、法律上、賃貸人の承諾が要求されているのです。

したがって、本件でも、あなたは、建物を売却するにあたりAさんの承諾を得ておく必要があります。もしAさんの了解をとらないまま建物を売却してしまいますと、借地権の無断譲渡がなされたという理由で、Aさんから土地賃貸借契約を解除されるおそれがありますので、十分に注意して下さい。

それでは、Aさんが承諾してくれない場合には、建物を売却できないのかというと、必ずしもそうではありません。

Aさんが借地権の譲渡を承諾してくれない場合、あなたは、裁判所に対して、Aさんに代わって借地権の譲渡を許可してくださいという申し立てをすることができます。これを代諾許可の申し立てといいます(借地借家法第19条)。代諾許可の申し立てがあった場合、裁判所は、借地権を第三者に譲渡しても地主に不利になるおそれがないかどうかを審理します。一般的に、建物の買い受け予定者がすでに決まっていて、賃料の滞納のおそれがないと認められる場合には、地主に不利になるおそれがないとして譲渡を許可してもらえますが、多くの場合、地主に対して承諾料を支払うことが条件とされます。つまり、この場合、あなたは、Aさんに対して承諾料を支払うことで、建物を売却することができるのです。