「交通事故の補償-車の所有者への賠償請求も」神戸新聞 2006年8月29日掲載
執筆者:森川 拓弁護士
Q:半年ほど前、青信号で横断歩道を歩いていて、信号無視の車に衝突され大けがを負いました。車を運転していたのは、同居する父親の車を借りていた21歳の大学生の青年でしたが、車には任意保険がかけられておらず、青年やその親から、十分な補償が受けられるかとても心配です
A:任意保険に入っていなくても、普通は強制保険(自賠責保険等)には加入していると思われますので(加入せずに運転することは犯罪です)、強制保険から一定の保険金を受け取ることはできます。しかし、それだけで十分かどうか、心配されているのだと思います。
まず、子どもといえども、成人している以上、その責任を親に問うということはできないのが原則です。ただ、このケースでは、別の理由で父親に賠償請求することが可能です。
車を運転していて他人を傷つけたとき、運転者が賠償責任を負うことは当然です。ただ、法律は運転者だけではなく、「自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)」が「他人」を傷つけたときは、原則として、運行供用者も、その責任を負うとしています。どんな人が運行供用者かイメージしにくいかも知れませんが、車の所有者は多くの場合、「運行供用者」に当たります。
そうすると、このケースでも、車を運転していた大学生の青年だけではなく、車の所有者である父親も責任を負うということになるのです。ただし、運行供用者が責任を負うのは、「他人の生命又は身体を害した」ことによる損害(治療費、休業損害等)についてだけで、物的損害(例えば車の修理費等)までは責任を負いません。
従って、あなたの相談に対する回答としては、治療費や休業損害等について父親に対しても請求できるという結論になります。
また、父親への請求の前に、自身が加入されている自動車保険に、無保険車傷害保険や人身傷害補償保険など、今回の事故に適用できる保険がついていないかどうか、保険会社に確認することも必要だと思います。法律上、父親に請求できるにしても、父親自身に十分な資力がない場合も考えられるからです。