遺言の有効性-記憶力などの要素を基に判定 神戸新聞 2012年1月17日掲載
Q:父が亡くなった後に遺言書が見つかり、「弟に全て遺産を相続させる」とありました。ただ、遺言書の作成時期には、父は認知症の症状が出ており、遺言が書ける状態ではなかったと思います。このような遺言でも有効なのでしょうか。
A:ご質問の遺言は、いわゆる相続させる旨の遺言というものです。特定の遺産を特定の人に相続させる内容の遺言で、登記の申請手続きや登録免許税などの点で通常の遺言よりもメリットがあり、多く利用されています。
相続させる旨の遺言がなされると、何らの行為も必要とせずに、当該遺産は当該相続人に帰属し、原則としてこの遺産については、遺産分割協議や家庭裁判所での遺産分割審判を経る余地がありません。したがって、本件の遺言が有効であれば、遺産は弟さんの所有地になります。
もっとも、本件遺言の内容が、相談者の遺留分を侵害する場合、遺留分減殺請求権を行使して、法律で保障されている一定の相続分を相続することができます。相続の開始および減殺すべき遺贈などを知った時点から1年もしくは相続開始から10年が経過すると、行使できないので注意が必要です。また請求する場合は、内容証明郵便などで行使したことを明確に示しておくのがよいでしょう。
遺言の有効性ですが、遺言が無効であることを確定させるには、地方裁判所に遺言無効確認の訴えを起こす必要があります。
法律上、遺言能力を有していない人がした遺言は無効とされます。この遺言能力の有無は、見当識(時間や場所など自分が置かれた現実を性格に把握すること)、記憶力、認知能力、知能などの要素を基に判断されますが、認知症だからといって直ちに遺言能力がないということにはなりません。言い換えれば、認知症の具体的な病状や進行具合によって、有効な遺言をすることも可能です。
相談者の父親の認知症の症状や進行具合によって、遺言が有効とされるかもしれません。