市立中の教師の体罰-損害賠償の請求先は市に 神戸新聞 2013年2月19日掲載
Q:市立中学校に通う息子が、授業中の体罰によってけがをしました。その後の教師の対応も納得がいきません。教師個人に対し、損害賠償請求をできるのでしょうか。
A:教員による体罰は、学校教育法第11条によって禁止されています。体罰は違法な行為として損害賠償請求の対象となります。
息子さんが授業中、教師による体罰でけがを負ったという今回のケースでは、被害者である息子さんやご両親としては、教師個人に対して損害賠償を求めたいという気持ちを抱くのは自然なことだと思います。
本件の加害者は市立中学校の教師ですので、地方公務員になります。公務員による職務中の違法行為に伴う被害者は、国家賠償法に基づき、国または公共団体に対して損害賠償を求めることになります。判例では、公務員に対して個人責任を追及することはできないもの、とされています。
従って、今回のご相談では、教師による体罰について、市に対して損害賠償を求めることになり、教師個人に対して損害賠償請求をすることはできません。
公務員の個人責任を追及し得ない理由としては、公務員の職務行為はリスクの高いものも少なくないため、公務員が個人責任を追及されることになると積極的な公務遂行が妨げられる恐れがあることや、被害者救済の観点から公務員による不法行為責任は国などが代わって賠償すべきと考えられていることが挙げられます。
加えて、国家賠償の要件を満たす場合には、国などによって確実に賠償を得ることができるわけですから、公務員の個人責任の追及はもはや被害者にとって報復感情を満足させる以上の実益はないとも考えられています。
なお、体罰を行ったのが私立学校の教師である場合には、国家賠償法が適用されないため、その教師を雇用している学校の使用者責任に加えて、教師に対して個人責任を追求することができます。
公立学校の教師であれば、たとえ体罰を行ったとしても直接的に個人責任を問われないという結論は、不公平かつ不合理であることは否めませんが、これが現在の取り扱いとなっています。