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くらしの法律相談(2008年-2016年)

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2013年 神戸新聞掲載『くらしの法律』相談

未払い給与の時効-従業員なら2年さかのぼり請求 神戸新聞 2013年12月3日掲載

執筆者:寺岡 良祐弁護士

Q:父はある会社の取締役でしたが、社長と仲たがいし、社員の兄と共に会社を辞めます。数年前から未払いだった役員報酬や給与などは、いつまでさかのぼって請求できますか。

A:まず、お兄さんの未払い給与から考えましょう。お兄さんは従業員ですから、会社と労働契約関係にあり、給与が支払われる立場にあります(労働契約法6条)。従業員は「事業または事務所・・・に使用される者」(労働基準法9条)に当たりますから、会社とのトラブルは同法が適用されます。
同法115条には「この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する」と規定されています。
このため、お兄さんの未払い給与は、2年間さかのぼって請求できます。なお、期間の起算点は「権利を行使することができる時」(民法166条1項)なので、給料日を基準にします。過去2年以内に給料日を迎えた分の給与について、請求できると考えてください。
では、お父さんの役員報酬はどうでしょうか。取締役は、会社の機関として業務執行を決定する取締役会の構成員であり(会社法362条)、会社と委任契約関係(民法643条)にあります。 
取締役は、定款または株主総会決議がなければ、会社に対して報酬を請求できません(民法648条1項、会社法361条)。会社に「使用される者」に当たらないので、会社とのトラブルは労働基準法が適用されません。結局、お父さんの未払い役員報酬の時効期間は、商事債権として5年間になると思われます(商法522条)。
なお、お父さんが、取締役〇〇部長のように従業員としての職務にも従事していれば、取締役としての委任契約関係と、従業員としての労働契約関係とがあります。この場合、役員報酬部分と給与部分は、分けて考える必要があるので注意してください。