2021年(令和3年)8月4日
兵庫県弁護士会
会 長 津 久 井 進
神戸地方裁判所は、2021年8月3日、障害を理由に旧優生保護法下で行われた不妊手術および人工中絶手術による被害者5名の国家賠償請求を棄却する判決を言い渡した。
国は、旧優生保護法を制定し、障害者に「不良」の烙印を押し、長年にわたり優生政策を推進することで、社会の隅々にまで優生思想を植え付けてきた。国は現在に至るまで責任を認めて被害者に謝罪することもなく、社会には今なお優生思想および障害者に対する偏見差別が根深く残っている。
本判決は、旧優生保護法の立法目的が非人道的であると断じ、個人の尊重を基本原理とする日本国憲法の理念に反し、憲法13条、14条1項及び24条2項に違反すると明言したのに加え、同種案件の中で初めて、違憲の優生条項を廃止しなかった国会議員の違法行為につき原告らの損害賠償請求権を認めた点で、一定の意義があることは否定しない。
その一方、国家賠償法4条・民法724条後段が定める20年の除斥期間の規定を、著しい不正義・不公平を考慮することなく適用し、原告らの損害賠償請求権が消滅したとして訴えを退けた。また、障害者を劣った者とする優生思想及び国策としての優生政策によって助長された障害者に対する偏見差別を根絶するため、国会議員が立法措置を講じなかったこと、厚生大臣及び厚生労働大臣において偏見差別の解消を図らなかったことに違法はないとした。
この判断は、裁判所が、立法と行政が生じさせた重大な人権侵害から目を背け、国の責任を免罪するものと言わざるを得ない。何よりも「私は人間として認められていない」と救いの手を求めた障害者に対し、人権の最後の砦としての司法の役割を放棄したものと言うべきである。
判決後、原告の一人は「判決には納得できません。同じ人間としての扱いをしてほしい」と悔しさや怒りを語った。被害者は引き続き司法の場で闘うとのことであるが、高齢化は進み、解決に一刻の猶予もない。当会も、旧優生保護法問題の全面的な解決に向け、誰もが人間としての尊厳が守られる一人ひとりが大事にされる差別のない社会の実現を目指し、ありとあらゆる努力を尽くす所存である。
以上