2021年(令和3年)11月25日
兵庫県弁護士会
会 長 津 久 井 進
兵庫県弁護士会は、2003年度(平成15年度)に神戸家庭裁判所から家事調停委員となる会員候補者の推薦を求められ、弁護士としての資質・経験ともに申し分のないA会員を推薦しました。すると、裁判所は、A会員が日本国籍でないことを理由に推薦の撤回を求めてきました。しかし、調停委員となる資格に日本国籍を要求する法令上の根拠など存在せず、むしろ外国籍であることのみをもって拒否することは憲法14条に反する不合理な差別です。そこで、当会は強く抗議しました。
その後も、A会員だけでなく、外国籍のB会員についても、調停委員への推薦が拒否されるたびに声明を発してきました。2016年(平成28年)の臨時総会では、会の総意として抗議を決議したこともあります。
にもかかわらず、令和4年4月任命予定の弁護士調停委員の推薦依頼に対し、外国籍のB会員及びC会員を推薦したところ、神戸家庭裁判所及び神戸地方裁判所は、去る11月17日と同月24日に、調停委員として最高裁判所に任命上申しないとの拒否通知をしてきました。B会員は、当会の会長及び日弁連の副会長を、C会員は、当会の副会長を務めた経歴があり、資質・経験とも調停委員にふさわしいことに疑いはありません。当会としては、この裁判所の取り扱いにどうしても納得することができません。
日本の法令では、調停委員は「弁護士となる資格を有する者、民事もしくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識を有する者または社会生活の上で豊富な知識経験を有する者で、人格識見の高い年齢四十年以上七十年未満の者」(民事調停委員及び家事調停委員規則1条)を任命することとされています。他のどの法令を見ても、日本国籍を要件とする規定などありません。
そもそも、裁判所の調停手続は民事・家事に関する紛争を当事者の話し合いで解決する手続きです。調停委員の役割は、双方当事者の言い分や心情に十分に耳を傾け、合意の形成に向けて調整を試みることであり、国家権力たる公権力の行使に関わることはありません。
日本には、300万人近くの外国籍者がおり、国際結婚や、外国人就労者として定住するなどして、日本社会で暮らしています。このため、むしろ、外国籍の調停委員が参画することは、外国籍の当事者の言い分を汲み取り日本社会における各種規範への理解を促しながら合意形成を図れることから、多様性ある多文化共生社会の実現にも寄与するものです。
実際に、1974年(昭和49年)から1988年(昭和63年)まで、中国(台湾)籍の大阪弁護士会所属の弁護士が14年間民事調停委員を務めた先例もあります。大阪地裁所長から同人の長年の功績に対し、感謝状が送られています。
国際的にも、国連人種差別撤廃委員会は、日本政府に対し、2010年(平成22年)と2014年(平成26年)の2度にわたる総括意見で、外国籍者が、資質があるにもかかわらず調停委員として調停処理に参加できないという事実に懸念を表明し、調停委員として行動することを認めるよう勧告を行っていますし、2018年(平成30年)8月30日にも同様の勧告をしています。
日本も含めた国連加盟国の全会一致で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の中でも、不平等を無くし、非差別的な法規や政策を推進することが目標の一つに掲げられています。
現代の日本社会において、外国籍の調停委員の任命を拒否し続けることは、国際的な時代の流れに逆行するものと言わなければなりません。
調停委員に日本国籍は不要です。
むしろ、国籍を問うことなく、資質・経験が豊かな適任者を調停委員に任命することこそが時代の要請であり、憲法をはじめとする諸法令の趣旨に沿うものです。
裁判所には、速やかに従来の取り扱いを改めていただきたいため、また、市民の方々にも広くこの問題を知っていただきたいため、この声明を発します。
以上