2022年(令和4年)3月28日
兵庫県弁護士会
会 長 津 久 井 進
2022(令和4)年4月1日、成年年齢が18歳になります。
法的に言えば、18歳・19歳の者を親権から離脱させ、自己決定権を行使する自律した個人として尊重することを意味します。社会的に見ても18歳・19歳の若者を「一人前の大人」として迎えることは意義深いことです。たとえば、虐待を受けた18歳・19歳の者を保護・支援をする上で、これまで親権が足かせになることがありましたが、今後はこれがなくなります。
しかし、一方で深刻な懸念もあります。
第1に、消費者被害の拡大です。自己の判断だけで契約できる年齢が18歳に引き下げられますが、これは悪質業者のターゲットにされる若者が増えることも意味します。
去る3月12日に、市民向け啓発オンラインイベント「民法成年年齢引き下げ迫る、問題点と今後なすべきこと」を開催しました。そこでは、知識・経験・判断力が不十分な18歳・19歳が悪質業者につけこまれる危険があり、国会ではアダルトビデオ出演契約締結のリスクが指摘され、その一方、消費者教育が十分に行き届いていない教育現場の現状も浮き彫りになりました。被害防止のための法制度や対策を速やかに講じなければなりません。
第2に、少年法の分野です。少年法では、罪を犯した18歳・19歳の者が「特定少年」とされています。少年法では、未成年者(少年)が罪を犯した場合、保護主義の理念から、家庭裁判所がその少年の特性を踏まえ、更生に必要な処分を決めてきました。しかし、今後は、特定少年にあたる者が、死刑、無期・短期1年以上の懲役・禁固に当たる罪を犯したときは、原則として、家庭裁判所から検察官に送致されます(原則逆送対象事件の拡大)。また、公判請求されると、20歳以上の者と同じく実名報道にさらされ、公開の法廷での刑事裁判を受けます。
犯罪被害者の心情に配慮した刑事手続であるべきことは当然ですが、罪を犯した18歳・19歳の者の更生のためにあるべき制度や支援の実践の検討は不十分なままです。一般に18歳・19歳という年齢帯は「子どもでもないが、大人とも言い切れない、未熟あるいは未完成な存在」と言われ、一人ひとりの精神面や社会面の発達の個人差はとても大きいのが実情です。それを踏まえて、個別支援を組み込んだ多様な更生制度が構築されなければなりません。
第3に、養育費の支払い期間に関する誤解への懸念です。法務省は、そのホームページで「養育費は,子が未成熟であって経済的に自立することを期待することができない場合に支払われるものなので,子が成年に達したとしても,経済的に未成熟である場合には,養育費を支払う義務を負うことになります。このため,成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に『18歳に達するまで』ということになるわけではありません。例えば,子が大学に進学している場合には,大学を卒業するまで養育費の支払義務を負うことも多いと考えられます」と述べています。
18歳で成年となっても、養育費の支払い期間については、夫婦の経済力や学歴、子の環境などを考慮して、その実情に応じて柔軟に決めるべきものです。18歳で養育費が支払われなくなるものではありません。そのことが周知されなければなりません。
18歳・19歳という年齢は、法制度設計として、必要な保護や支援策が講じられなければならない対象であることは明らかです。法制度上、公営ギャンブルや飲酒・喫煙などの年齢制限が20歳のまま据え置かれたのはその一例です。
かつて、18歳、19歳だった私たちが法律によって救済を受け、社会人として成長できたことを踏まえ、成年となる18歳・19歳の者を含め、若年者たちが、健全で安定した社会生活を送ることができるように、当会は、引き続き意見を発信するとともに、関係機関と連携して必要な取り組みを行い、個別の救済活動への支援を続けて参ります。
以上