意見表明

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死刑執行に抗議し、死刑執行停止と刑罰制度見直しの検討を求める会長声明

2022年(令和4年)8月5日     
兵庫県弁護士会         
会 長  中 上 幹 雄    

<声明の趣旨>

 当会は、令和4年7月26日の東京拘置所における1名の死刑囚に対する死刑の執行に強く抗議し、改めて死刑制度の存廃を含む刑罰制度全体の見直しを行うために、速やかに死刑執行、死刑制度に関する諸情報を開示した上で国民的議論を深めるとともに、その議論が尽くされるまでは、死刑の執行を停止することを求める。

<声明の理由>

 去る令和4年7月26日、東京拘置所において1名の死刑囚に対する死刑が執行された。
 改めてこの死刑囚により命を奪われた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族に対しお見舞い申し上げたい。 
 一方でそもそも現在、死刑制度の議論については、当会においても死刑制度を廃止すべきか、存置すべきかの二項対立から、将来的には廃止すべきではあるが時期尚早であるとの意見、死刑制度を廃止する代わりに仮釈放のない終身刑を設けるべきとの意見、終身刑を設けるとしても例外的に仮釈放の余地を残すべきとの意見など、様々な意見が出始めており、会内議論を行っているが、死刑制度の是非について未だ意見の一致を見るに至ってはいない。

 内閣府が令和元年度に実施した世論調査では「死刑もやむを得ない」との回答は80.8%であったものの、そのうち39.9%の者は「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止しても良い」と回答している。また、仮釈放のない終身刑が新たに導入されるならば「死刑を廃止する方が良い」と回答した者が、回答者全体の35.1%にのぼっており、前提となる刑罰制度の内容等によっても意見が大きく左右され、死刑制度を廃止すべきか、存置すべきかの二項対立で割り切れる状態ではなくなってきている。当会での議論の状況は、このような世論調査を反映しているとも言える。

 死刑制度を存置すべきとの意見の背後には、最愛の家族等を殺害されるなどした遺族を含む犯罪被害者の加害者に対する死刑判決及びその執行を望む声がある。そのような犯罪被害者の想いは、人間として自然な心情であって、十分に理解・尊重されなければならないし、犯罪被害者に対する精神的なケア等を含めた支援施策は国によって積極的に講じられなければならない。もっとも、犯罪被害者の心情も一律に死刑判決を望んでいるわけではなく、一人ひとり異なっていることへの配慮も欠いてはならないし、死刑制度を含む国家の刑罰制度のあり方が、専ら個々の犯罪被害者の心情のみによって決定されることは必ずしも相当ではない。

 死刑制度については、様々な意見が存するとしても、死刑は、人間の存在の根元である生命そのものを国家権力が奪い去る最も厳しい刑罰であることについて異論はなく、憲法の保障する個人の尊厳に対する究極的な侵害であることにも異論はない。
 死刑制度の是非は、今現在の価値観(日本のみならず、全世界の価値観を広く含む)において、国家権力に人間の生命そのものを奪い取る権限を与えることの是非として議論されなければならない。

 この点、国際社会においては、世界の3分の2以上の144の国において、法律上ないし事実上、死刑が廃止されており、2020年12月の国連総会では、8回目の死刑執行停止決議が採択され、日本に対して死刑執行停止を求める勧告がなされた。OECD加盟国の中で、死刑廃止国である豪州との関係では、日本が死刑制度を存置していることが両国間の安全保障・防衛協力に関する協定締結の障害になっており、南アフリカとの関係では、日本が死刑制度を存置していることを理由に、凶悪犯罪の被疑者の引渡を拒まれる事案があったと報じられており、我が国の死刑制度のあり方が、外交関係における重要な課題になっているところであって、国益にもそぐわない。
 一方、死刑存置国である米国は、バイデン政権下において死刑廃止に向けた議論を始め、連邦レベルでの死刑執行を一時停止させるに至るなど米国においても変化の兆しがある。

 そもそも現状は、死刑制度、死刑執行に関する情報提供が不十分な状態であり、国民的議論の深まりもまだ不十分であるが、今後の情報提供を前提とした議論の深まりによっては、我が国においても米国同様に変化する可能性が十分に考えられる。にもかかわらず、ここでの世論調査の結果を理由として議論が尽くされたなどとするのは早計に過ぎる。

 当会は、これまで、死刑制度の存廃を含む刑罰制度全体の見直しについて、その議論が十分尽くされるまで死刑執行を停止すべきであることを何度も繰り返し求めてきた。それにもかかわらず、今回、再び1名に対する死刑の執行が行われたことは極めて遺憾であり、強く抗議せざるを得ない。
 そして、改めて、死刑制度の存廃を含む刑罰制度全体の見直しについて、速やかに情報を開示したうえで国民的議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを求めるものである。

                                       以 上

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