中度の知的障害を有する申立人は、第三者所有の車の側面を叩き、損傷を与えたとして器物損壊事件の被疑者となりました。明石警察署の警察官は、令状を取得することなく申立人の指紋及びDNA採取を行いました。指紋の採取にあたっては同行していた申立人の母親から同意を得ていた可能性がある一方で、DNA採取にあたっては母親を含む家族等の同意を全く得ていませんでした。
令状を取得することなく任意捜査として指紋及びDNA採取を行うためには、本人の同意が必要となります。もっとも形式的に同意があっても、同意をした者が当該捜査により侵害される利益の存在及び内容を正確に理解していなかったのであれば、当該同意は有効になされたとはいえません。
ここでDNA情報は遺伝情報の集合体であり、個人の識別にも用いられる究極の個人情報です。ところが、申立人は、前記のとおり中度の知的障害を有しており診断書によれば「何事においても見守り・指示がないと、自ら動くことはなく、また、自らの判断・決断能力に重大な欠陥が認められる」状態でした。そうすると、申立人は、自らのDNA情報を捜査機関に提供することの意味やそもそも遺伝情報や個人情報といった概念を正確に理解できたとはいえません。
このようなことから、明石警察署の警察官が、令状を取得することもなく、同行していた母親の同意すら得ることもなく、DNA採取を行った捜査は違法であったと判断しました。
そこで、上記のような違法な捜査により取得された申立人のDNA型記録データの抹消・廃棄を求めるとともに、同様の捜査が二度と行わないよう警告しました。